日産 スカイラインGT-R ▲R32日産 スカイラインGT-Rの中古車平均価格は、今や700万円に到達しそうな勢い。確かに素晴らしい車であり、買えるものならぜひ買いたいわけですが、現実的にはかなり厳しいのかもしれません。ならばもっと現実的な価格で、なおかつ十分満足もできる「別の車」を検討してみるのどうでしょうか?

R32スカイラインGT-Rの価格ダウンが望めなくなり、今後は別の車を狙うしかない?

1989年8月に発売されたBNR32日産 スカイラインGT-R。……何とも素晴らしい車である。その魅力と威光は、終売から約30年が経過した今もまったく色あせていない。

だが色あせないだけに、その中古車価格も強烈だ。

ご承知のとおりR32スカイラインGT-Rは海外でも大人気なだけあって、本稿執筆時点での平均価格は667.7万円。コンディション良好な個体の価格は普通に1000万円を超えており、「価格応談」の物件も多いため、実際の平均価格はさらに高額だろう。

そんなR32 GT-Rの中古車価格も「待っていれば下がりそう」かと言えば、残念ながらその可能性は低い。

超伝説のクラシックスポーツカーの価格というのは、時間の経過とともに上がることはあっても、大きく下がることはほとんどない。そのため――酷な話ではあるが、「BNR32日産 スカイラインGT-Rを手に入れる!」という夢は、多くの人間にとって夢のままで終わってしまう可能性の方が高いのだ。

だが、それについていつまでも悲嘆に暮れていても仕方がないし、悲観に暮れたままでは生きている意味がない。ここらでひとつR32 GT-Rの“呪縛”から解放され、「別の車も真剣に考えてみる」という行動を取ってみるのも悪くないのではないか。

そこで本稿では、BNR32スカイラインGT-Rのおおむね半値=総額300万円台で狙える「R32 GT-Rの代わりになり得るかもしれないモデル」について、真剣に考えてみたい。
 

日産 スカイラインGT-R▲R32日産 スカイラインGT-R が搭載したRB26DETT型2.6L直6ツインターボエンジン。このユニットの魅力を存分に味わいたかったわけですが、今後は別の車の購入を真剣に検討する方が現実的なのかも
 

代替案1|ホンダ S2000(初代)
想定予算:総額300万~380万円

BNR32 スカイラインGT-Rとはボディタイプもエンジン方式も駆動方式、もう何から何まで違うホンダのオープン2シータースポーツではある。しかし、これは意外と代わりになり得る1台なのではないだろうか。
 

ホンダ S2000▲こちらがホンダ S2000。写真は2Lエンジンを搭載した初期モデル

R32スカイラインGT-Rが人々を引き付けてやまない真の要因とは、性能それ自体ではなく「伝説」あるいは「神話」であるはずだ。

「1990年代までに技術で世界一を目指す」という日産“901運動”の集大成として生まれた車のひとつがR32 GT-Rであり、多くのコンポーネントはこの車のための専用設計品だった。そして生まれたグループAマシンはツーリングカーレースの世界でまさに伝説級の活躍をし、グループAマシンと(ある意味)直結していた市販バージョンも、同時代を生きる人々の間で伝説となった。

だからこそ、R32GT-Rの代替品には「性能」「類似するボディタイプ」などばかりを求めても無意味なのだ。そうではなく、BNR32 GT-Rに匹敵するほどの「伝説感」あるいは「神話感」を求めなければならないのだ。

そう考えたとき、ホンダ S2000という車には“それ”があることに気づく。
 

ホンダ S2000▲ボディサイズは全長4135mm×全幅1750mm×全高1285mm。オープンボディだが、クローズドボディと同等以上の剛性が確保されている

「SSM(スポーツ・スタディ・モデル)」というコンセプトカーとしてまずはお披露目されたホンダ S2000は、初代NSXの開発責任者を務めた上原 繁氏が陣頭指揮を執って開発が進められ、1998年9月にホンダの創業50周年を祝う記念式典においてプロトタイプが発表されたFRオープンスポーツ。

その成り立ちは「ほぼすべての部品がワンオフの専用品」と言っても過言ではなく、市販バージョンの生産も、初代NSXと同じく栃木県の高根沢工場が担当した。

そして新開発のF20C型2L直4DOHC VTECエンジンは、11.7の高圧縮比とF1由来のPGM-F1(プログラムド フューエル インジェクション)により、なんと9000rpmの最大許容回転数となった――など、伝説の類には事欠かない1台であり、実際の走りにおける鋭さと快感も伝説級あるいは神話級である。

そんなホンダ S2000を総額350万円前後で購入し、レッドゾーン寸前までF20C型VTECユニットを吠えさせる日々を送れば――BNR32日産 スカイラインGT-Rの代わりとしては十分な、いや十分以上の存在となる可能性はきわめて高いだろう。
 

ホンダ S2000▲F20C型エンジンのシリンダーブロック。排気量2Lだった前期型のレブリミットは9000rpmだが、2.2L化された2005年11月以降のF22C型はレブリミット8000rpmに変更された

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ホンダ S2000(初代) × 全国
 

代替案2|ポルシェ 911カレラ(タイプ996・後期型)
想定予算:総額310万~390万円

ポルシェ 911という車がもつ威光あるいは伝説も、BNR32 GT-Rを入手できなかった悔しさを忘れさせてくれるだろう。
 

ポルシェ 911▲ポルシェ 911。写真はタイプ996と呼ばれる世代の後期型

車好き各位に対して過剰な説明は不要だろうが、ポルシェ 911は、ドイツのポルシェAGが1960年代から作り続けているRRのスポーツクーペ。細かな諸元や性能は年代ごとに異なるというか、歳月を追うごとに恐ろしいほどの進化を続けているが、「リアに積まれる水平対向6気筒エンジンおよび全体の超絶精密感」は、どの世代の911にも共通するものである。

そしてポルシェ 911という車だけがドライバーに感じさせる超精密感および超トラクション感を一度でも味わえば、BNR32 GT-Rのことは確実に忘れることができる――とは言わないが、少なくとも大満足できることだけは間違いない。

R32スカイラインGT-Rのおおむね半値で買えるポルシェ 911カレラは、1998年から2004年まで販売された「タイプ996」。その前期型はいささかの不満を覚える箇所もあったが、2001年9月以降の後期型であれば質感は高く、3.4Lから3.6Lに拡大されたフラットシックスも十分にパワフル。

総額300万円台で狙えるのはATのティプトロニックSが主になるが、そこが気にならないのであれば、タイプ996の後期型カレラはBNR32 GT-Rの代わりになり得る存在だ。
 

ポルシェ 911▲「RRだからスピンしやすい」などと言われるポルシェ 911だが、一般的なハイスピードで走る分には、リアのトラクションは相当なモノ。「911=リアが出やすい」というのは、公道においては単なる都市伝説だ
ポルシェ 911▲911伝統の5連メーターはタイプ996も踏襲。なんとも「その気」にさせるメーターまわりのデザインである

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ポルシェ 911(タイプ996) ×カレラ系グレード× 2001年9月~2004年7月生産×全国
 

代替案3|メルセデスAMG Cクラス(W204型) C63
想定予算:総額360万~450万円

ポルシェ 911カレラはR32 GT-Rの代替案として大いにオススメの存在ではある。しかし総額300万円台で狙えるのは、911の中ではややおとなしめな存在といえる996型のカレラまたはカレラ4だけであるという点に、若干の物足りなさを覚えるかもしれない。

ならば、最高出力457ps/最大トルク600N・mの6.2L V8自然吸気エンジン「M156」を搭載したメルセデス・ベンツ C63 AMGでどうだろうか?
 

メルセデス・ベンツ C63▲W204型メルセデス・ベンツ Cクラスに6.2L V8ユニットをぶち込んだC63 AMG

ご存じのとおりAMGとは、もともとは1967年創業の独立系メルセデス・ベンツチューナー。ハンス・ヴェルナー・アウフレヒト(Aufrecht)とエアハルト・メルヒャー(Melcher)がグローザスバッハ(Großaspach)の地で創業したということで、それぞれの頭文字を取って社名は「AMG」になった。

モータースポーツの世界を席巻したAMGは、1980年代からはメルセデスへの正式なパーツ供給と車両の共同開発を行うようになり、1999年には「メルセデスの1部門」に。そして現在はメルセデスの中で「モータースポーツ」と「市販スポーツモデルの開発」を、メルセデスAMGとして担当している。

そして2007年から2014年まで販売されたメルセデスAMG C63とは、そんなAMGが、そのレーシングテクノロジーを存分に注入した6.2L V8自然吸気エンジンを搭載した「小さなモンスター」である。
 

メルセデス・ベンツ C63▲レースで培われたテクノロジーを惜しげもなく注ぎ込んだ珠玉のM156ユニットは、AMGの聖地であるアファルターバッハにて、熟練工1人が1基のエンジンを受け持って組み上げていた

成り立ち的には「レース用エンジンのデチューン版」と言えるC63 AMGのM156エンジンは、その痛快さと能力に関しては、過去のフェラーリ製自然吸気V8エンジンにまったく負けていない。ということは当然ながらR32 GT-Rが搭載したRB26DETTユニットにも、能力の面でも官能性の面においても負けていない。

そんなメルセデスAMG C63の新車時価格は軽く1000万円を超えていたが、現在の中古車平均価格は438.9万円。「R32 GT-Rの半額」と言うには若干お高いプライスだが、M156エンジンの希少性と伝説、そして実際のパフォーマンスを鑑みれば、出費するに値する金額だと言える。そして身体が置いていかれたような感覚を覚えるC63 AMGのフル加速を堪能すれば、BNR32 GT-Rをあきらめた悔しさも、遠き彼方へ置き去りにしてくれることだろう。
 

メルセデス・ベンツ C63▲前期型のトランスミッションはトルコン式の7速ATだが、後期(2011年~)では「スピードシフトMCT」という、トルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを使った7速ATに変更されている

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メルセデスAMG Cクラス(W204型)× C63 × 全国
 

代替案4|トヨタ GRヤリス(初代・現行型)
想定予算:総額310万~390万円

ここまではR32 GT-Rに比較的近いボディサイズをもつモデルを代替案として挙げてきたが、よく考えてみれば「大きさ」にこだわる意味はないのかもしれない。必要なのはあくまでもBNR32 GT-Rと同等の伝説とパッション、そして諸性能であり、それ以外のことは割とどうでもいいからである。

ならば、R32 GT-Rの代わりとなるモデルが「GRヤリス」でも良いのではないか?
 

トヨタ GRヤリス▲こちらがトヨタ GRヤリス。写真の奥側で定常円旋回しているのはGRヤリスのワークスラリーカー

2020年9月に発売されたトヨタ GRヤリスは、トヨタがWRC(世界ラリー選手権)を勝ち抜くために、TMR(トミ・マキネン レーシング)の協力を得て開発したホモロゲーションモデル(公認取得用車両)。

3ドアハッチバックのボディサイズは全長3995mm×全幅1805mm×全高1455mm。「RS」以外のグレードは最高出力272ps/最大トルク370N・mの1.6L直3直噴ターボエンジン「G16E-GTS」に6MTを組み合わせ、多板クラッチによる前後駆動力可変システムを採用したスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を採用している。

とはいえ、WRCの現行規定ではエンジンや駆動方式の変更が認められているため、市販販GRヤリスの凝ったエンジンと4WDシステムは、ワークスマシンには不要なものである。しかしそれでも「プライベーター向けカテゴリーであれば、ほぼノーマル状態のままでラリー競技に参戦でき、そして勝つこともできる!」というGRヤリスの本気っぷりは、どこかBNR32 GT-Rが開発された際の本気っぷりに似たものがあるように思える。
 

トヨタ GRヤリス▲GRヤリスは、GRシリーズ専用の生産ライン「GRファクトリー」にて作られている

総額300万円台前半で狙えるのは、装備が簡略化された軽量な競技向けグレード「RC」が中心となるが、そのスパルタンな雰囲気も、もともとR32 GT-Rという硬派な車に憧れを抱いていた者にとっては逆に好都合かも。そして総額300万円台後半の予算を投じるつもりがあるなら、オンロード向け装備が普通に充実している「RZ」を選ぶこともできる。
 

トヨタ GRヤリス▲RZグレードのトランスミッションは「iMT」という6MT。2024年4月には「GR-DAT」という8速ATも追加されている

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トヨタ GRヤリス(初代・現行型) × 全国
 

代替案5|トヨタ MIRAI(2代目・現行型)
想定予算:総額280万~350万円

ここまで、BNR32日産 スカイラインGT-Rの代わりになり得るモデルを鋭意ピックアップしてきた。それらはどれも素晴らしい車であり、特にホンダ S2000は、R32 GT-Rの呪縛から自らを解き放ってくれる1台なのではないかとにらんでいる。

だが同時に……どれもいささか「弱い」ような気もしている。

R32 GT-Rという車があまりにもエポックメイキングな1台であったため、そしてあまりにも伝説と神話に彩られたマシンであるため、他の何を持ってきても「良いのはわかるが、R32 GT-Rの代わりになるかと言われたら……」みたいになってしまうのだ。これはもう伝説の名車の宿命である。

ならば、いっそ真逆の方向へ大ジャンプしてみるという選択はどうだろうか?

すなわち、珠玉の2.6L直6ガソリンツインターボエンジン「RB26DETT」から、燃料電池車「トヨタ MIRAI」への大転換である。
 

トヨタ MIRAI▲酸素と水素を燃料電池に取り込んで電気を作り、その電気で駆動用モーターを働かせる燃料電池車、現行型トヨタ MIRAI

そこに「似ている部分」や「ある意味同じところ」があると、人間はどうしたって初恋の車や初恋の人のことを思い出してしまう。そして思いを成就できなかった痛みに、心が引き裂かれることになる。

しかし「何の面影も共通点もない、むしろ真逆な、しかし素敵なモノや人」と新たに出会ったとき、人は過去を捨てることができるというか、過去の思いを浄化できるのではないだろうか。

もしもそうであるならば、珠玉のガソリンエンジンからはなるべく遠い、なるべく正反対の方向へと足を進めてみるに限る。そうすると、総額300万円台前半付近のゾーンで出会うことになるのが、FCV(燃料電池車)である現行型トヨタ MIRAIなのだ。
 

トヨタ MIRAI▲新世代の「GA-L」プラットフォームに、計5.6kgの水素を充塡可能な3本のタンクを搭載。駆動用モーターは最高出力182psで、最大トルクは300N・m
トヨタ MIRAI▲左右非対称のデザインを採用し、運転席側では包まれ感を、助手席側では広がり感を表現している現行型MIRAIのインテリア。ここまでスカイラインGT-Rと方向性が真逆だと、いろいろと吹っ切れるのでは?

最高出力280ps/最大トルク353N・mのガソリンツインターボエンジンを搭載する比較的コンパクトな2ドアクーペであるR32 GT-Rと、同182ps/同300N・mの永久磁石式同期型モーターを積む車重1930kgのFCVとでは、何から何までが違いすぎる。

R32 GT-Rはご存じのとおりド硬派なスポーツカーだが、現行型MIRAIは、乗り味的にも動力性能的にも「プレミアムDセグメントまたはEセグメント」である。

だが「まったく違う」からこそ、そして同時に「これまでの乗り物とは決定的に違う」と随所に感じられる現行型MIRAIだからこそ、その鷹揚な乗り味にひたりながら、RB26DETTを積むR32 GT-Rに憧れた日々のことを、甘酸っぱくも前向きな気分で思い出すことができるのではないか――と思うのである。
 

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トヨタ MIRAI(2代目・現行型) × 全国
文/伊達軍曹、写真/尾形和美、日産、ホンダ、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、トヨタ
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。